世界を変えた地図グーグルマップ誕生の軌跡 NEVER LOST AGAIN
日頃の業務に紐づく部分で、最近はGoogleMAPに向き合う日々が続いていますが、この領域とても面白いと感じてます。GPSや測位手法などの技術的な話もそうですし、「地図」が持っているビジネス上の金脈もザックザク出てきそうです。(まだ皆気づいていない)
本書籍は、GoogleMAPの前身となるキーホールの創業から歴史を紐解き、その創業コアメンバーの2人(創業主ジョン・ハンケ/Go-founderキル・ビルディ)が歩んできた道のりを描いたものです。キーホールのスタートからGoogleMAPに移り変わりUU数10億人を超えるまで、たった6年という驚異的な数字です。
Googleのムーンショットプロジェクトとして、ストリートビュー、グラウンドトゥルースの言及もありますが、これだけでも膨大なネタになるので割愛します。ちなみに、キーホールの名前の由来はアメリカのスパイ衛星のようです。
■肝となるデータ
MAPは地図情報(ソフトデータ)の網羅性が肝で、最初はキーホールも自社で買い付けていたようです。その多くは税金を投下してパブリックセクターの方々が撮影したドメインのものでしたが、そこまで費用は高くなかったとのこと(税金を使った公共サービスという立ち位置なので)。キーホールが凄かったのは、データ集めを先んじてやって、しかもそれをオープンにしたことで、警察署や消防庁などの公共機関が、自発的に自分たちが抱える地図データを送ってくれる流れを作ったこと。だいぶ早いタイミングから。公共機関からすると、政府のイケてないサービスの、しかも特定の部門(GIS部門)を通してしか見られない手間を考えたら、キーホールに纏めてしまった方が効率的だし楽だ、という力学が働いたようで。
ただ画像の解像度が粗いという難点があったため、以下3点の戦略を実行したとか。
1.衛星画像の獲得
2.航空機撮影の画像データ獲得
3.空中写真を取り扱う会社と直接交渉
■In-Q-Telの出資
普段のビジネスシーンだとあまり耳慣れない名前ですが、In-Q-TelというのはCIAなどが出資元になっているVCのようです。自分は世の中の仕組みが色々と知りたくて別の文脈でこの組織の存在をしりましたが、米軍やUS政府ひも付き組織は調べれば面白いところが沢山ありそうです。そのうちトピックとして取り上げたいと思います。
■バズる
地図サービスとしてどうマネタイズし、どうユーザーを増やしていくか、というのは創業メンバー側の悩みのタネだったようですが、きっかけは面白いものでした。それはCNNのニュース放送内での活用で、ビジネスとは無関係の、当時バグダッド爆撃がされていた地域のMAPとして放送に引用されたのがきっかけのようです。
■Googleからの買収提案
このあたりから、我々のような一般庶民でも知っているようなビッグネーム(ラリー、セルゲイ、マリッサなど)が実名でセリフ付きで出てくるため、更に面白くなります。まだGoogleが上場する前に、キーホールの買収の話が持ち上がり、ここから飛躍的にサービスが伸びるきっかけとなります。裏話として面白いのが、創業者のジョン・ハンケがGoogleの買収提案にどうするか悩んでいるのに対し、買収MTG直後にPC上で、Googleの売上などの赤裸々な情報をチラ見せさせた逸話などが載っています。当時、Googleがまだ上場前で、本当にAdwordsなどがドル箱になっているのか半信半疑だったジョンを説得するためだったのでしょう。現代を想像すると、ブロックチェーンや暗号通貨の界隈での引き抜きでもこんな話はゴマンとあるのかもしれません。
■ぶち壊さない
買収の裏話でもう一つ。当時既に売上も立ち、プロダクトとしても独り歩きを始めていたキーホールは、ラリー・セルゲイにとっては金脈でもあり手を加えたい宝の山だったが、一方で、既にプロダクト思想が明確にある状況でもあり、とにかく現状維持が最優先にした(?)のだとか。普通は買収するとGoogleの経営傘下に置く流れのようですが、キーホールはそのまま手をつけずに自走させ続けた、という印象です。
■Google社名
ちょっと脱線しますが、Googleの社名について。ラリーとセルゲイは当時2400万あった世の中の全てのウェブサイトをダウンロードし、互いにリンクを張っている情報を分析し、ページランクを開発、これが現在のGoogleの検索アルゴリズムの根幹を支える思想になっており、このタイミングで、プロジェクト名をグーグルに変えたのだとか。グーグルは数の単位で10の100乗から取ったもので、googol(グーゴル)というスペルだったが、ラリーがドメイン取得時に間違えて現在になったもの。お茶目ですね。この手の話は腐るほどあると思いますが、今の業務をきっかけに、改めてGoogleという組織についてちゃんと勉強したいと思います。
■ラリーとセルゲイ
二人の人物像が良く分かる逸話として、キーホール側で地図データを更に詳細に買い上げるプランを二人に提案したときの話。世界の都心部のデータ300万km2分を300万ドルで買うプランは、ジョン・ハンケにもビル・キルディにとっても、既に途方もないインパクトだったのに対し、「それだけじゃ足りない。地球全部買おう。その場合はいくら?」とラリーとセルゲイは議論を膨らませまくる。其上で、議論をできるだけ常識の範疇から引き離す(なるべく途方も無い規模で大きく考える)ことをお互いにけしかっている様子だとの事です。これは創業者の逸話としてとても面白いし、ここにGoogleの信念や思想が見え隠れしている気がします。
■誇示・宣伝は不要
ハリケーンが襲った地域で、沿岸警備隊がGoogleMAPによって人命をより多く救えた、という逸話もあります。今までの世界では位置情報が正確でなかったのに対し(or水害の場合、土砂によって家屋が流れたり住所がめちゃくちゃになる)、緯度経度の情報で正確に避難者の場所を割り当てヘリコプターで救助に向かえた、との話です。これだけでも凄いな~と思いますし、普通は企業としてCSR的な発信など対外アピールに使うはずですが、当時の広報担当の返答がとてもクールです。本文をそのまま引用します。
「いえ、辞めておきましょう。素晴らしい話ですが、私達はそうしたことを宣伝には使いません。それはラリーやセルゲイがしたい事ではありません。グーグルは自社の善行を誇示することに関心がないのです。自分たちを褒め称えるようなことはしません。」
■グーグルオーシャン始動
話が少し逸れますが、地上だけでなく海中の地図データも作ってしまおうというプロジェクトがあるようです。壮大過ぎて鼻血が出ますね。
■PokemonGo
最後の結びに、GoogleMAPからジョン・ハンケとビル・キルディが抜けて、新たなプロジェクトとしてナイアンティック社を起ち上げ、PokemonGoを成功に導く話も含まれています。元々の地図が果たす役割として、人を行きたい場所に導くとともに、まだ見ぬ場所に誘う役割(外出して興味あるスポットを開拓する)に触れています。その役割は自分もすごく理解していますし、PokemonGoが単なる遊びのツールではなく、コミュニティを生み出し、引きこもりの子供を外に連れ出す、などの副次的な素晴らしい効果を理解しているつもりです。
そのPokemonGoについて、ビルがGoogleMAPの成功と比較してどうだったのか気にしている点があります。それに対しジョンが、
「ブライアンがGoogleTrendでPokemonGoとGoogleMAP、GoogleEarthのローンチ時の注目度合いを比較したグラフを送ってきた。Goは3倍だったよ」
とのこと。どんな領域でもいいですが、人に役立つもので世界に貢献したいな、という想いを改めて強くしました。
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